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二章 飲み会
それは、会社の連中との飲み会の後から始まった出来事だった。
九月になると、たいていの会社では観風会が行われる。観風会とは北海道特有の言葉であるようであるが、要するに職場で行く秋の一泊旅行の懇親会のことだといえば、いいのだろうか。
例年私の職場では、九月の初めにその観風会のことを話し話う飲み会があった。別に特別に集まって話すほどのことでもなかったが、要は皆で集まって飲む大義名分が欲しかっただけなのだろうと思う。
部屋に入ると、所長が早々と席に着いていた。どうやら私が最後のようであった。
幹事の大橋が立ち上がった。
「ちょっと早いのですが、全員揃ったので、始めることにします。初めに三村所長から一言挨拶をいただきます」
「みなさん、お疲れのところ、今日は全員揃っているんだな? お集まりいただきご苦労様です。皆さんご存知のようにわが保険業界は非常に厳しい状況のなかで、戦いを進めているわけです。当営業所の最近の成績は、決して芳しい状態ではありません。だが、わたしはこれから年末に向けて充分挽回が可能であると思っています。成績の良いもの、悪いもの其々おりますが、特に成績の悪いものは今後の努力を望むものです。今日は恒例の観風会の打ち合わせということですが、早く終わらせて楽しく飲みたいものと思っています」
皆から、拍手がされた。
それからは、幹事から観風会についての形ばかりの提案がなされ、拍手で承認された。
それから次長の、川崎の乾杯の音頭で飲み会が始まった。
私は、少しばかり苦い酒を飲んでいた。なぜなら、私は所長の云った成績の悪いものであったからであった。しかもNo.2であった。No.1の男は、粕屋という男であったが、首を切られるのは間もなくだろうという噂だった。
暫くして、上村が酒をつぎに来た。同じ歳の仲の良い男だった。彼は、私とちがって常にいつも成績の上位グループにいた。
「おう、飲んでるか?」
「ああ、やってるよ」
「これから、頑張らんとまずいよな。出るものもでなくなっちまうよ」
彼に発破をかけられたと思った。
「そうだな、俺も頑張っているつもりだが、なかなか結果が出ない」
「まあ、そうあせるなって。必ずチャンスはくるから」
「そういってもらうと、気が休まるよ」
「ところで、所長のところにつぎに行ったほうがいいんじゃないか」
そう云うと、上村が目配せをした。あまり気乗りはしなかったが、私は所長の所に酒をつぎに行った。
丁度、所長のところには庶務の淺川という女の子が来て酌をしたものだから、しごくご機嫌であった。わたしは、どうぞと云って酒をついだ。
「根岸君か、頑張ってくれよな。君はもっと出来ると、期待しているんだからな」
そこまではよかった、だが私は所長の次の言葉で冷や水を浴びせられることになった。
「今度結果が出せないと、私も少し考えなければならない。なんせ、本部のほうからも何かと風当たりが強くて、私も大変なんだ」
大変だといったって、所長はただ皆の尻をひっぱたいているだけだろう。本当に大変なのは、前線部隊の我々さ。そう思ってはみても、なんの自分への慰めにもならなかった。
私は、頑張りますといって引き下がるしかなかった。後で私は粕谷のところへ行った。
「まあ、いっぱいやれよ」
「ああ、根岸か。わるいな」
「俺もさっき、所長から厳しいことを云われたぞ」
「でも、お前ならまだなんとかなるだろう。もうひと頑張りさ。それに比べて俺は、完全にアウトだ」
「そんなこと云うな。これからだってやってみなけりゃ分からないだろう?」
「奇跡でも起こらなきゃそんなこと無理さ」
粕谷は、気持ちのやさしい男だった。だが、その性格ではこの仕事は難しいのかもしれなかった。結局この男も去っていくのだろうと思った。私は去るわけにはいかないと思った。だがその確証があるわけではなかった。
「二次会行くんだろう?」
「粕谷も行くのか?」
「こうなったら開き直りさ、どこでも行くぞ」
「そのつもりで、仕事やってみろ」
私は、柄にもなく彼を激励いていた。