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ある年の夏の町内会の親睦会のことであった。恒例行事になっていたバーベキュー大会であった。 その会は例年通り、夕方から始まっていた。駐車場にコンロを設置して、ござを敷いていた。風も少しあったから、天気は申し分なかった。青空の下で私達は旨い生ビールと焼肉に舌鼓を打っていた。私は、結構いいだけ飲んですっかり良い気分になっていた。どういう経緯だったか、そのとき清田のばあちゃんが、話をしていた。なぜか私を含めて男どもが彼女の話に聞き入っていた。 「あたしはね、若い頃今でいう、OLってのかい。東京で、それをやっていたんだよ」 「そうかい、ばあさん。みかけによらず洒落ていたんだな」 酒が入っている所為か、会長も口が悪くなっていた。だが、まったくそれを気にかける風もなく、清田のばあちゃんは言葉をつづけた。 「当時はね、あたしも若かったし、職場には若い娘が少なかったから、これでも結構もてたんだから」 「うーん、そういわれても。なんかぴんと来ないな」 思わずそう云ってしまったのは、私だった。後から考えたらもう少し、云いようもあったのにと思うのであった。 「それは、その時のあたしを知らないからだよ」 「で、ばあちゃん。誰か好きな男がいたのかい?」 沢崎がたずねた。 「そこの職場に百瀬という若い男がいてね、あたしより一つ年下だったけど。気持ちのとっても優しい人だった。あるとき、その人の仕事を手伝ったのがきっかけで、お互いを意識するようになったの」 「で、どうなったんだい?」 「彼は、あたしを好いてくれて。結婚まで考えてくれたの。でも、だめだったわ。彼には、家で決めた許婚がいたし、それに私の方が、年が上だったでしょ。だから、まとまる話じゃなかったわ」 「今じゃ、考えられない話だな。昔は、そんな事があるとは聞いたことがあるけど、本当なんだ」 私がそう云うと、崎山という先輩が口をはさんできた。町内で司法書士事務所を開いている方であった。、 「そうなんだ。昔はそんなことはよくあったことなんだ。今は幸せだよ、好き合ったものは自由に結婚できる世の中になったんだからな。でも、逆にそのことに慣れてしまって、当人同士が不自由になってしまったのかもしれない」 「それって、どういうことですか?」 私が聞いた。 「たとえば、離婚が多くなっているだろ。何事も自分の思うようにしたいのが人間さ。だけど、それを押し通せば意見がぶつかるのもまた人間さ。自由を求めれば不自由にめぐり合う、幸せを求めれば不幸せにめぐり合う、人生ってそんなものさ」 私は、なんとなくその先輩の云わんとすることが分かるような気がした。ばあちゃんより、ずっと幸せな時代に住んでいるのに、住んでいる人間自体がそうなっていないのは皮肉な話だと思った。 「で、その後の話はどうなったんだい。ばあさん?」 「しばらくは、そこの会社に居たけど、結局はあたしはこの街にもどってきたわ。でもね、いつの間にか婚期を逸してしまっていたあたしには、いい話はなかったわ。実家のほうでひっそり暮らしていたの。でもね縁があって、清田が再婚だったけど、あたしを貰ってくれたのさ」 「ばあちゃんは、清田が好きだったのかい?」 「あら、云いづらいことを聞いてくれるわね。最初はどうとは思わなかったけど、思ったよりやさしい人だったわ。ちょっと気難しかったけどね」 「おいおい、結局はばあちゃんの、のろけを聞かされてしまった訳かい」 沢崎が、大きな声で云った。 えらくあつい話しを酒の肴に出されて座は盛り上がった。いつもにこにこしている彼女ではあったが、その時の顔はとりわけ嬉しそうだった。 「さあさあ、まだまだ食べるものはあるぞ。景気良く飲むぞ」 会長のその一言で、その話題は終わった。 だが、私はそこでのやりとりが、妙に心に残ったのを覚えている。そうして、それから町内会の行事の時、彼女の姿を見る度、いつも変わらない笑顔と出会うことになった。 |
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