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第一章 帰省

 私が、この故郷のT市でクリスマスイブを、迎えることが出来たというのは、本当に信じられないほどラッキーなことであったと思う。
 私の会社は、いわゆる自動販売機関係のメカ部を中心に製作している会社であった。私は、そういう機械の設計を担当しているエンジニアだった。ただし、機械は複雑で大掛かりであるから担当が分野別にわかれていた。私の専門は、電気関係であるが、全体的なシステムのとりまとめを、やることが最近の主体的な業務になっていた。
 それと、三十歳にもなっているが、まだ独身であった。その、仕事の内容から分かってもらえると思うが、女性に縁の薄い職場であった。おまけに業務内容は厳しかった。私は、一般的な若者達のように休日を遊びまわるなんてことは、ほとんどなかった。
 その朝、私は、営業部の淺川部長に呼ばれていた。その経緯はつまりこういうことであった。

 「しばらくだね、平野君」
 「部長も、お元気そうですね」
 「ああ、なんとか頑張っているよ。そうでなければ、うちみたいな会社は、生き残ってはいけないからな」
 淺川部長とは、一時期、何度かクレーム対応で一緒に行動したことがある。仕事には厳しかったが、人間的な温かさも持っている人であった。
 「実は、急な話しだが、札幌に飛んでくれないか」
 「どうかしたのですか?」
 「札幌の×××病院に、納入した例の設備のことだが、君も知っているね?」
 「ええ」
 「わが社としても、今後の戦力として期待したプロジェクトなのだが、ちょっとトラブルが発生したのだ」
 「そうですか確か、テストランは完了したと聞いていましたが?」
 「そうなんだ、ところが、いよいよ本格稼動を始める段階で、不調が発生したということだ」
 「本来なら、統括エンジニアの遠藤君に行ってもらうはずだが、この前の事故だろう」
 その、先輩のエンジニアの遠藤は先日交通事故を起こしていた。幸い人身事故ではなかったが、足を折って、1ヶ月はまったく業務は無理のようだった。
 「時間があるなら、札幌の、セールスエンジニアとでも連絡を取り合って、対応することも可能かもしれないが、いかんせん時間が無いんだ。それに、対応がぐずぐずしていると、今後の我々の営業に差し支える。それで、君に行ってもらいたいというわけさ。もちろんこちらのほうの、バックアップ体制は、私が責任をもってつくっておく」
 「そうですか、それでいつ行けばいいんですか」
 「休みの関係があるので、先方は、二十五日の朝一番で、現場に入ってくれということさ」
 「分かりました、クリスマスですね」
 「ああそうだったな、年末の慌しいところ悪いが、よろしくたのむ。君の上司には、もう話をしてあるから、あとは必要な打ち合わせを行ってくれ」
 私は、一礼をして、そこを離れた。

 そういえば、明日からはカレンダーでは、三連休であった。それで、私はひらめいた。今回のスケジュールのことで、私の直属の上司の菊地課長と話しをすることにした。

 「分かった、必要な機材は、宅配便を使って送らそう、遅くても前日には着くな?」
 「確認のほうは、私のほうで行いますから」
 「ああ、そうしてくれ」
 「ところで、課長折り入ってお願いがあるんですが」
 「なんだ?」
 「二十五日朝一番、現地入りということですが、そうならば二十四日移動ということになりますね」
 「そうだな」 
 「出来れば、明日の便で移動したいと思っているんですが」
 「それは、どういうことだ?」
 「私の、実家はT市なんです。ずっと休みももらっていなかったので、その連休を利用して、里帰りに行ってみたいんです」
 菊地課長は、ちょっとしぶい顔をしたが、了解してくれた。
 運がよかったことには、丁度私の仕事が一区切りついたところであった。それに、業務上、私は休日の出勤も多かった。正月もここ二年ほど、帰ることが出来なかったことを、菊地課長は知っていた。
 「もちろん分かっていると思うが、旅費は通常規定によるから、それから里帰りの件は、会社としては感知しないから、そのつもりでな。それと、天気予報は必ず確認しておけよ」
 「ありがとう、ございます」
 「まあ、たまには親孝行でもして来い」
 そう、云うと菊地課長は、にやりと笑った。


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