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第二章 実家

 私は、札幌からの列車に乗っていた。T市までなら、違う空のルートを使えばもっと早く、着くことも可能だった。だが、私は社内規定があるので、そのあたりがおとしどころであったろうと考えた。でも実際のところ私は、久方振りの列車の旅にとても満足していた。
 雪はあるにはあったが、随分少ないと感じた。これも地球温暖化の影響であろうと思う。家に電話をしていたが、故郷はほとんど雪が無いと言うことであった。昔はなんて云うと、随分年寄りじみた言い方になるが、私の子供のころは、十二月といえば一面の雪景色であったように思う。

 駅に降り立った私は、おもわず深く息を吸い込んだ。故郷の空気を実感していた。そうして、バッグを持つと歩き始めた。私の実家までは、歩いても10分足らずであった。タクシーに乗りたいと思うほどの歳にはなってないと思っている私であった。
 それより、私は少し遠回りになるが街の中を通って行くことにした。街の繁華街が寂れてきているとはいえ、さすがにクリスマスイブである。それなりの、華やかさと明るさがあった。イブの街を歩くのは、この街を出て以来のことになる。ほとんどの店は変わっていたが、それでも古くからの店もいくつかはそのままであった。私は懐かしさをかみ締めながら歩いた。
 道には、ほとんど雪がなかった。だが、あちらこちら路面が凍結していた。寒いことは確かに寒かったが、覚悟してきたほどの寒さではない。懐かしい風景の中を、私は白い息を吐きながら、家に向かった。

 風呂から上って、私はテーブルに着いた。
 「そうか、仕事のほうはまずまずなんだな、それは良かった」
 父が云った。
 「今時は、皆大変のようだからねえ、それを聞いて、私も一安心だわ」
 三人で食卓を囲んでいた。懐かしい、母の手料理と、なかなか豪華な刺身の大皿があった。私が、ビール好きなのは両親も知っていることであった。私の好物の『たち』のフライがあった。北海道に帰ってきた。そんな気がするひと時であった。
 「智久、向こうではよく呑んだりするのか」
 「実際のところ、唯一のストレス発散のようなものだからね、やっぱり会社の連中と呑むことが多いよ」
 「身体のこともあるから、ほどほどにしなさいよ」
 「分かってるって」
 「ところで、明日はどうするつもりだ。夕飯は家で食べるのか?」
 「昼には、大澤と久方ぶりにスキーに行く約束をしているんだ。そうして夜は、もちろんあいつと夜の街に繰り出すつもりさ」
 大澤は、学生時代からの友人で、無二の親友であった。今は、地元の建設会社に勤めていた。
 「そうか、二十四日は夜行で帰るって云っていたけど、それはどうするつもりだ」
 「今のところは、別に予定がないから、家で食べるつもりだけど」
 「クリスマスイブなんて、ずっとやったことないけど、母さんその日はケーキを買わなくちゃならないな」
 「そうですね」
 「俺は、別にケーキなんて無くてもかまわないよ。まあ、母さんが食べたいんなら別だけど」
 「せっかくだもの、そうしましょうよ。ところで智久、向こうではどう、いい人できたの?」
 また、その話が出てきたと私は思った。
 「いいや、仕事が忙しくて、そんな気分には」
 この私の返事も、決まり文句のようになってしまっていた。
 「どうだい、本当に、こちらで探そうか?」
 父が云った。
 「その話は、いいよ。その気になったら、こちらから頼むよ」
 「でもねえ、そろそろ年も年だし」
 母が、小声でいったそのことばを、私は聞こえない振りをしていた。
 父は、困ったものだというような顔をしていた。確かに、私は自分で、不肖な息子だと思っていた。
 「さっき、来るとき街中を通って来たんだけど、閉まっている店も幾つかあったけど。景気のほうはどうなの?」
 「余りよくないようだよ。特に、街中は郊外に大型店が出来てから、すっかり人通りも減ってしまって、寂しくなる一方らしい」
 母が云った。
 「今はどこでもそうみたいだね。時代の流れとは云っても、何か寂しい気がするね。僕がこちらに居たころは、随分な賑わいだったよね」
 「ああそうだな」
 父が相槌をうった。

 携帯が鳴った。大澤からだった。
 「飲んでいたのか?」
 「ああそうさ」
 「おれは、今帰ってきたから、これから一杯やるところさ」
 「お仕事、ご苦労さん」
 「ところで、明日の出発時間だけど、10時で良いか?」
 「ああかまわないよ。それよか、奥さんや子供さんはどうなった?」
 「一緒に行くことになった」
 「そうか、またお前の奥さんに言われそうだな、嫁さんまだですかって」
 「それは、しょうがないだろう」
 電話の向うで、大澤が明るく笑った。
 「じゃあしたな」
 「楽しみにしているから」
 そう云って、私は電話を切った。
 旨い酒を飲んで、家でくつろいで、そうして明日の夜は大澤と飲むことが出来る。私の気分は最高であった。

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