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第三章 居酒屋にて

 私と、大澤はある居酒屋に居た。大澤のお気に入りの店であった。店の中は、木の造りになっていて、ちょっと懐古調の雰囲気が私も気に入った。
 「ほんと、久しぶりだよな。こうやって乾杯するのも」 
 大澤がそういって、二人で乾杯をした。
 「そうだよな、まさか、こうやってお前と飲めるなんて、数日前までは思ってもみなかったよ」
 「札幌はどうだった、雪があったのか?」
 「ああ、あったよ、でも大した量ではなかった。道路は、結構解けていた」
 「そうか、北海道も最近は、雪が少なくなってきているからな」
 「確かに」
 「そういえば、ホワイトクリスマスという言葉があるが、ここ何年かは、そうで有ったり、無かったりとういことかな」
 大澤が、云った。
 「え」
 「つまり、クリスマスに雪があるのが、半分くらいの確率ということかな、まあ、当日に雪の降ることもあるが、やっぱり半分まではいかないかもしれないな」
 「そういうことか、確かにクリスマスは、やっぱり雪景色が似合うよな」
 「ところで、結婚の話はないのか。うちのかみさんも心配していたぞ」
 「今のところ、全く気配なしというところさ。そうか、奥さんと子どもは、元気なのか?」
 「ああおかげさまでな、子どももついこの間二歳になったよ」
 「もうそんなになるのか」
 私は大澤の奥さんを知っていた。随分前の夏のことになるが、私がこの街に里帰りしたとき、いつものように二人で街に繰り出して、知り合った女性の一人が、その大澤の奥さんであった。二人は一年くらい付き合って、ゴールインした。後で知ったが、出来ちゃった婚であった。
 「ところで、前から聞いてみようと、思っていたのだが、結婚生活って、いいものか」
 「何で、そんなことを聞くんだ?」
 「いや、俺の先輩で、結婚生活は人生の墓場って云うが、本当だったと、呑むとやたらこぼす先輩がいるんだ」
 「ふむ、それは酒癖の良くない先輩だな。ひとついえることは、きっと尻にひかれているんだろうな」
 「そうじゃなくて、お前はどう思っているのかさ」
 「いいことばかりはないさ、それに本当に幸せかって云われたら、考え込んでしまうな。でも、子どもは可愛いよ」
 「おいおい、それは、微妙な答えだな」
 「俺はこう思うんだ。ものごとってのは、知ったほうが良かったこともあるが、知らないほうがよかったということだってあるものさ。だが、人間の本質はその知るってことじゃないかと、最近思うようになった」
 「妙に、哲学めいたことをいうな」
 「そんなに、気にしないでいいが、良いとか悪いとかではなくて、俺は本心から、結婚を勧める。なぜ、そう云うかは結婚すれば分かるからだ」
 「逆に云うと、結婚しなければ永久に分からないということか?」
 「そのとおりさ」
 「じゃ、まあ、分かったということにしておこう」
 店の中は、賑やかだった。明日がクリスマスイブだからということでもなかろうが、年末の華やかさが人々の表情を明るくしているようだった。初め、大澤は明日はイブで家でパーティをするから、今日はほどほどにしておこうと云っていたのだ。だが、すっかり、話も盛り上がって、酒も進んでいた。そろそろ二件目に行こうかという話をした後だった。

 「そういえば、和久井聡子、知ってるよな?先日、彼女見かけたよ」
 懐かしい名前を聞いたとたん、私は学生時代の自分を思い出していた。大澤と私はこの町のK工業大学に通っていた。二人とも卒業後、本州に就職したが、大澤は間もなくUターンしていた。学生時代は、二人でそれこそ、よく飲み歩いたものだった。どういう、経過(いきさつ)だったか今となってはよく覚えていないのだが、大澤と私とその和久井聡子と彼女の友達であった吉田亜沙子とよく四人で飲んだことがあった。大澤と聡子は小学校時代の同級生であった。だから、おそらくどこかで、我々が出合って、それで四人で会うようになったのだと思う。でも、いつの間にか会うのが疎遠になって、気が付いたときにはまったく連絡を取ることもなくなっていた。それは、うまく説明することができないけど、自然にそうなっていた。でも、そのきっかけは、あの事件だったのではないかと私は思っていた。

 「懐かしい名前だな、何処で会ったんだ」
 「街の中さ、驚いたことに、彼女はブティックを経営しているんだ」
 「ええ、ほんとうか、そいつは驚いたな」
 「小さな店だけどな。俺が道を歩いていたら、客を送り出してきたんだろう。ばったり、鉢合わせさ」
 「彼女どうだった?」
 「昔と、あんまり変わっていなかったよ。ほんのちょっとだけ立ち話をしたんだけど、まだ独身らしいぜ。そうそう、お前はどうしているか聞いていたぞ」
 
 大澤は、そういうと、私の目を覗き込んだ。彼の魂胆は読めたが、過ぎたことは過ぎたことで、化学反応ではないが、戻ることのないもののもこの世にはたくさんあるのさ。私は、そんな気分であった。
 「とにかく、これから二件目に行くぞ」
 そう云ったのは、もちろん大澤だった。

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