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第十六章 風の中を

 新メニューの試食が終わって、二人に時間があるなら外でも歩いてきたらと云ったのは、隆造だった。

 「ねえ、新メニューはどうだった?」
 「うん、いけると思うよ。あとは実際にお客の反応を見ていくことになるな」
 それほど、ゆっくり出来るわけではなかった。だから二人は、この前の公園に向かっていた。雲が薄くあって、日差しは柔らかかったし、風が少し強いくらい吹いていた。だから、気持ちの良い夏の日であった。だが、間もなくその夏も終わり秋を迎えるはずであった。

 「東京に行くの楽しみだな。本当なら、心細く感じるはずだけどそんな感じがしないわ」
 「どうして」
 「純哉さんが、いるからよ」
 そういうと、聡子が微笑んだ。
 「なんか、不思議な感じがするんだ」
 「何が?」
 「聡子ちゃんの小さい時と、今の聡子ちゃんがどうしても結びつかないんだ」
 「あら、それは私も同じよ。今の純哉さんと昔の純哉さん全然違うもの」
 「僕達、幼馴染ってことになるのかな?」
 「そうなんでしょうね」
 「でも、本当は違うよね」
 「そうね、純哉さんは、遠いところから突然私の前に現れた男の人」
 「そうして、僕が出会った素敵な女性」
 そう、云った純哉はさすがに照れて、聡子の目を見ることは出来なかった。

 「ねえ、いつ私を意識したの?」
 「初めて見たときさ、店に入ったときだね」
 「君は、僕を意識した?」
 「私も、そうだわ。でもさいしょは警戒したのよ」
 「どうして?」
 「都会の人は、遊び人が多いっていうから」
 「おいおい、それはちょとひどいよ。そういう人も中にはいるだろうけれども」
 「そうね、だけど純哉さんが良い人だって、すぐわかったわ」
 「ありがと」
 その、純哉の言い方が可笑しいといって、聡子が笑った。
 時間帯のせいであろうか、今日は、公園には誰の姿も見えなかった。
 二人は、この前のベンチに腰掛けた。

 「ねえ、この前四季の話しをしたでしょう?」
 「ああ、そうだね」
 「私、今でも皆好きなんだけど、夏が一番優しいと思うようになったの」
 「それは、またどうして?」
 「だって、夏はあなたという恋人を連れてきてくれたからよ」
 「それは、僕も同じさ、君は夏の恋人さ」
 そう云うと、純哉は聡子の肩をそっと抱いた。雲間からさした陽の光が二人を包んでいた。二人だけの、静かな時間が流れていた。

 やがて、二人は、手をつないで風の中を歩きだした。

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